精子提供をした後、私はどんな気持ちでいるのか――ドナー側のリアルを正直に書く

2026年5月22日


精子提供に関する情報は、受け取る側(ドニー)の視点が中心です。

どうやって提供を受けるか。どんなドナーを選ぶか。妊娠後の生活はどうなるか。それらは大切な情報で、もちろん発信していきたい。

でも今回は、少し違う角度から書きます。

提供した側の、その後の気持ち。

これを書いた記事は、ほとんど見当たりません。ドナーが自分の内面をオープンにすることは少ないからだと思います。でも、提供を検討している方にとって、ドナーが何を考えて活動しているかを知ることは、判断の材料になるはずです。正直に書きます。


活動を始めたとき、何を考えていたか

2023年に精子提供の活動を始めました。

きっかけは、20年以上仕事に専念してきた末に、「自分には子どもがいない」という現実と向き合ったことです。パートナーを見つけて家庭を作るという選択が難しくなった年齢で、それでも「子どもに関わる形で何かできないか」と考え始めました。

子どもを持ちたいのに持てない人がいる。精子提供という方法があると知った。自分の健康状態に問題はない。ならば、支援できるかもしれない。

正直に言えば、最初は「自分にそんなことができるのだろうか」という不安の方が大きかったです。社会的にも法的にも、グレーな部分が多い活動です。誤解されるかもしれない。批判されるかもしれない。それでも、誰かの役に立てるかもしれないという気持ちの方が勝りました。


初めて提供したとき

最初の提供は、今でも鮮明に覚えています。

相談から面談、検査、そして実際の提供まで、何度かやりとりを重ねました。相手の方は選択的シングルマザーを目指している30代の女性でした。真剣に、丁寧に、自分の人生を考えている人でした。

提供が終わった後、しばらくの間、不思議な感覚がありました。

何かをした、という実感はあります。でも、それが「正しかったのか」という問いは、すぐには答えが出ませんでした。

子どもが生まれるかどうかもわからない。生まれたとして、その子の人生にどう関わっていくのかも不明確。自分がしたことの結果が、どこにあるのか見えない。そういう宙ぶらりんな感覚が、しばらく続きました。


妊娠報告を受けたとき

これまで6名に提供をし、そのうち2名から妊娠の報告をいただきました。

最初の妊娠報告を受けたときのことを、うまく言葉にするのが難しいのですが、「嬉しい」という感情とは少し違いました。

安堵、というのが一番近いかもしれません。

「この活動に意味があった」という確認のような感覚。と同時に、「この先、生まれてくる命に対して、自分はちゃんと向き合えるだろうか」という緊張感も生まれました。

DNA検査で血縁が確認された後、養育費のお支払いが始まります。月10万円という金額は、経済的な負担として考えたことは一度もありませんでした。それよりも、「この支払いが続く限り、自分はこの子の存在を忘れることができない」という感覚の方が強かった。忘れたくない、という気持ちも、そこにありました。


「父親」ではないけれど、「無関係」でもない

精子提供における自分の立場は、法的には「ドナー」であり、「父親」ではありません。認知もしません。日常的に関わることもありません。

でも「完全に無関係の他人」かというと、そうも感じられない。

どこかで自分の遺伝子を受け継いだ子どもが育っている。その子が健康で、幸せでいてほしいという気持ちは、活動を始めてから今まで、ずっとあり続けています。

この感覚に、最初は戸惑いもありました。感情移入しすぎているのではないか。ドナーとしての立場を踏み越えているのではないか。

でも今は、この感覚を大切にしていいと思っています。「無関心であること」がドナーとしての正しい態度だとは、もう思っていません。関心を持ちながら、でも踏み込みすぎない。その距離感を保つことが、長期的に誠実な関係につながると感じています。


続けることで変わってきたこと

活動を3年続けて、変わってきたことがあります。

最初は「自分に何ができるか」という問いから始まっていました。今は、「この活動が、どんな社会につながるか」という視点が加わっています。

選択的シングルマザーが増えている。FTMトランスジェンダーの方が妊娠を望むケースがある。無精子症のパートナーを持つ夫婦が選択肢を探している。そういう人たちが、安心して子どもを持てる社会になってほしい。

精子提供はその一つの手段に過ぎませんが、その手段が「ちゃんと機能する形」で存在することに、少し貢献できているとすれば、続ける意味があると感じています。


批判や誤解を受けることについて

精子提供のドナー活動は、誤解を受けることがあります。

「なぜそんなことをするのか」「裏に何かあるのではないか」「子どもを散らかしているだけではないか」

そういう見方が存在することは知っています。全員に理解してもらえるとは思っていません。

でも、活動の実態を知ってもらえれば、少なくとも「誠実にやっている人がいる」ということは伝わると信じています。感染症検査の結果を開示し、遺伝リスクについて説明し、DNA確認の上で養育費を支払い、出自の開示に対応する。これらは、「責任を持って関わる」という意志の表れです。


迷っている方へ

この記事を読んでいる方の中には、精子提供を検討しているけれど、ドナーという存在への不信感や疑問を持っている方もいると思います。

「なんでそんなことをするのか」は、正当な問いです。ぜひ、直接聞いてみてください。

私がどんな動機で活動しているか、提供後にどんな気持ちでいるか、子どもの将来についてどう考えているか。聞かれたことには正直に答えます。答えを聞いた上で、「この人は信頼できる」と感じてもらえれば、一緒に進めればいい。そう感じられなければ、別のドナーを探せばいい。

ドナーの内面を知ることは、長期的な関係を築く上で大切なことだと思っています。

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まとめ

  • 精子提供を始めた動機は、20年間仕事に専念した末に「子どもを持てなかった後悔」と、誰かの力になれるかもしれないという気持ちから
  • 初めて提供した後は、結果が見えない宙ぶらりんな感覚があった
  • 妊娠報告を受けたとき感じたのは「嬉しい」より「安堵」と「責任感」
  • 法的には父親ではないが「完全に無関係」とも感じられない。その感覚を大切にしながら距離感を保っている
  • 3年続ける中で「自分に何ができるか」から「この活動が社会につながるか」へ、視点が変わってきた
  • 誤解や批判があることは知っている。それでも、誠実にやり続けることで伝わるものがあると信じている
  • ドナーの内面を直接聞くことは、信頼できる関係を築くための大切な一歩

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