「出自を知る権利」がついに動き出す――2026年5月、超党派議連の修正案が示したこと

2026年5月15日
2026年5月13日、大きなニュースが飛び込んできました。
超党派の議員連盟(会長・野田聖子元総務相)が、精子や卵子の提供で生まれた子どもの「出自を知る権利」を保障するための修正法案の骨子をまとめたことが明らかになりました。
精子提供の活動をしている立場として、この動きをどう読むか。この記事で正直にお伝えしたいと思います。
昨年の法案が廃案になった理由
まず、経緯を整理します。
自民党・公明党・日本維新の会・国民民主党は2025年2月、提供のルールや出自に関する情報を知るための制度を盛り込んだ法案を参院に提出しました。しかし、この法案には大きな問題がありました。
法案には、医療機関に対し、事実婚の夫婦や同性カップルへの精子や卵子の提供を禁じる内容が含まれていたのです。このため、議連に加わっていた立憲民主党内で反対意見が強まり、審議入りできずに廃案になりました。
「出自を知る権利」を守るための法案であるはずが、一方で「法律婚以外の人には提供してはいけない」という制限を設けていた。選択的シングルマザーや同性カップルを法律で排除する内容が盛り込まれていたため、賛成できないという声が強まったわけです。
これは当然の結果だったと思っています。子どもの権利を守る法律が、同時に多様な家族の形成を妨げるものであってはならない。
今回の修正案で何が変わったのか
今回の修正では、出自を知る権利の保障に内容を絞り、精子や卵子の提供を法律婚に限った規定などを削除することで各党の理解を得たい考えです。
つまり、「誰に提供するか」という制限の部分を法案から切り離し、「生まれた子どもが出自を知る権利」の保障だけに絞った内容に修正したということです。
これは前進です。ただし、手放しで喜べるかというと、そうでもない。
「出自を知る権利」の中身が問題
修正案の方向性は評価できますが、「出自を知る権利」の実質的な中身については、まだ課題が残っています。
出自を知る権利には2つの側面があります。1つ目の「自分がどのように生まれたかを知る権利」については、告知支援の制度が初めて法案に盛り込まれた点で大きな前進といえます。しかし2つ目の「提供者(ドナー)の情報を知る権利」については、極めて限定的です。未成年の間は一切情報を得られず、成人後も知ることが保障されているのは、身長・血液型・年齢など一部の周辺情報にとどまります。
さらに深刻なのは、開示の仕組みです。本人が18歳になるまで何の情報も得られず、成人後も情報が開示されるかどうかは、提供者(ドナー)がその時点でどう判断するかに左右されます。
これは、子どもの権利がドナーの意思に委ねられているということです。「子どもの権利なのに、行使の主体がドナー側にある」という当事者の声は、正当な指摘だと思います。
親たちの不安も深刻だ
精子提供による生殖補助医療を受けている法律婚の夫婦のうち、75.5%が特定生殖補助医療法案に「反対(法制化が遅れても構わない)」と回答し、反対の理由として最も多かったのは「子の出自を知る権利が不十分だから」で、全体の74.1%を占めました。
親自身が「この法律では子どもに十分な情報を伝えられない」と感じているわけです。
親である自分たちが、子どもに伝えるための十分な情報(ドナーの周辺情報)すら得られない現状があります。加えて、将来子どもが出自を知りたいと願っても、情報開示には子が成人した時点でのドナー本人の同意が必要となる制度設計に対し、「親として責任をもって準備しておきたいのに、それができない」という声も多く寄せられました。
当サイトが「出自開示可」にこだわる理由
私がドナー活動をする上で、出自の開示を最初から「可能」としているのには、理由があります。
精子提供で生まれた子どもが傷つく最大の要因は、「提供で生まれたこと」ではなく、「隠されていたこと」「知りたいのに知れなかったこと」だと考えているからです。
法律がどうであれ、自分が関わった子どもには、将来「自分はどこから来たのか」を知る手段があってほしい。それは子どもの権利であり、親が子どもに用意できる最低限の誠実さだと思っています。
特別養子縁組制度では、子ども側は生みの親の氏名や本籍地などを縁組した時に知ることができます。出自を知る権利は子どもの権利の一部で、子どものウェルビーイング(心身の健康や幸福)を左右するからです。
養子縁組では認められていることが、精子提供では認められない。この非整合が、早く解消されることを願っています。
法律が整う前に、今できることがある
今回の修正案は、法整備に向けた一歩です。ただ、法律が完成するまでには時間がかかります。そして法律ができたとしても、それがすべてをカバーするわけではありません。
大切なのは、法律の有無に関わらず、「子どもの権利を守る意識」を持ったドナーと、信頼できる関係を築くことです。
ドナーを選ぶとき、出自開示に対するスタンスを必ず確認してください。「将来、子どもが知りたいと言ったら、どうするか」という問いに、真剣に答えてくれるドナーかどうか。それが、子どもの未来を守る一つの基準になります。
法律の議論を「自分ごと」として追いかけてほしい
今回のニュースは、精子提供を検討している方にとって、決して遠い話ではありません。
今後生まれてくる子どもが、どんな制度のもとで育つか。出自を知る権利がどこまで保障されるか。それは今、この国で議論されていることです。
法案の動向を追いかけながら、「この制度設計なら安心して進められる」「まだ不十分だと思う」という自分なりの判断を持つことが、長期的な安心につながります。
当サイトでは、引き続きこのような法律・制度の動きについても情報をお届けします。精子提供を検討している方が、社会的な文脈も含めて判断できるよう、発信を続けていきます。
まとめ
- 2026年5月、超党派議連が「出自を知る権利」に絞った修正法案の骨子を発表
- 昨年廃案の原因だった「法律婚以外への提供禁止」規定を削除し、各党の合意を目指す
- ただし「出自を知る権利」の中身はまだ不十分。成人後もドナーの同意が必要な設計が課題
- 法律婚の夫婦でも75%超が「権利の保障が不十分」として法案に反対している現実がある
- 法律が整う前でも、ドナー選びの段階で「出自開示への姿勢」を確認することが子どもの権利を守る第一歩
- 法案の動向を「自分ごと」として追いかけることが、長期的な安心につながる
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